
ふう、今日も一日が終わる。
雲の切れ間から陽が差し、夏らしい青空が広がった。
久しぶりに汗ばむ陽気に、季節のめぐりを感じる。
もうすぐ8月。
コロナ禍を除けば、毎年この時期は妻の実家がある愛知県へ向かっていた。
その滞在中、私は決まって岐阜の柳ヶ瀬をひとり、ぶらりと歩くのが常だった。
かつては繊維の町として賑わった柳ヶ瀬。
今では大きなアーケードも、シャッターの閉まった商店も、往時の面影を静かに残している。
それがどこか、私の故郷・阿佐ヶ谷を思い出させる。
パールセンターを中心に広がる商店街――。規模は柳ヶ瀬には及ばないけれど、
青梅街道から駅まで続くあの通りには、今も昭和の香りが漂っている。
だからだろうか。
柳ヶ瀬を歩いていると、子どもの頃の記憶がふっとよみがえる。
懐かしく、切ないような、あたたかい気持ちになる。
シャッターが閉まった店が目立つ中、ぽつりぽつりと営業している店もある。
時代に埋もれず、ひっそりと個性を放つ場所たち。
中でも印象に残っているのは、「ロイヤル劇場」。
昭和の映画を専門に上映していて、確か600円ほどで観られたはずだ。
最前列の真ん中に腰を下ろし、スクリーンを見上げる。
ポップコーンを頬張りながら、懐かしい映画の世界に身をゆだねる。
そのひとときは、まるで時間が巻き戻ったかのようだった。
時には、自転車でぶらぶらと川沿いを走る。
長良川の支流にそって流れる澄んだ水。
昔は期間限定でお化け屋敷もあったけれど、今はもうやっていないようだ。
柳ヶ瀬の一角にある玉宮通りには、飲み屋が軒を連ねている。
店先のアルミのタライにはドジョウが泳ぎ、それを唐揚げにしてくれるのだとか。
まだ入ったことはないけれど、いつか一杯やってみたい場所だ。
それから、娘と同じ名前の小料理屋があって、
昼どきにはランチを出している。何度か足を運んだこともあるが、
昨年ひさしぶりに訪れたら、お店のご主人が「覚えてますよ」と言ってくれた。
うろ覚えでも、覚えていてくれたことが、なんだか嬉しかった。
今年の夏は、息子の受験があるので、愛知には行けそうにない。
少し寂しいけれど、来年こそはまた家族そろって、
あの懐かしい風景に会いに行けたらと思う。