年老いた母との電話

取引先との面談中に、携帯電話に着信があった。母からだ。大事な面談中だ。電話には出ない。

外出から職場に戻ると、母からのショートメールで「相談したいことがあるから電話ほしい」とある。

仕事の合間に、母と電話で話す。

どうやら、昨年末に亡くなった父の保険金の請求のことのようだ。

「◯◯生命の書類が届いたんだけれど、なんだか心配になって。書き方を見てほしい」

「あれ、書類はお兄ちゃんのところに届くんじゃなかったの?」

「それとは別の。私が保険金を受取る分。私だけでは不安なの。次の三連休で時間とれないかしら」

書き方は生命保険会社に聞けばいいことだ。私も三連休の最終日は、息子の通う予備校で、大学受験校の相談がある。それ以外の日も畑の収穫やら、農業資材の片付けもしないといけない。三連休だから、一日ぐらい出かけたい。

「◯◯の通う予備校で、大学受験の相談をしないといけないんだ。ちょっと忙しい。今、いつ行けるか決めることはできないよ」

と話す。

「そう。じゃあ、お兄ちゃんに頼もうかしら」

私は、今は行く日にちは決められないといったのだが、兄に頼むという。母は別にお金に困っているわけではないので、保険金の請求も急ぐ話ではないだろうに。

「じゃあ、お兄ちゃんに相談して」

と伝えた。その後、母は私の息子が四十九日の法要に来れるか聞いてきた。受験日と重なってしまえばいけないが、まだ受験校も決まっていないのでわからない、と伝えた。前に話したことと同じことを母は言う。

ひとしきり話して、電話を切った。

母も年を取って、心細いところもあるだろう。また、気が短くなった。こちらが忙しいこともおかまいなしだ。

一方で、なんとかやりくりすれば、実家に寄ることもできるが、それを避けようとした自分がいた。

「できるか、できないか」よりも、「やりたいか、やりたくないか」で考えている自分にきづく。

保険会社に聞いてやってほしいし、そうすれば私の休みの時間もとれる。それは、私のエゴなのか。もっと母に優しくすればよかったのか。

わからない。兄がうまく母をサポートしてくれるかもしれない。

保険会社へ電話して相談すれば済むようなことまで、サポートすべきなのか。私も、急な用事に対応できるように、休みの日の時間ぐりに余裕をもたせたほうがよいのか。

確かに、休みの日には、週末農業をしたり、新聞各紙の書評欄をチェックしてノートに書き出したりして、けっこう忙しくしている。50代半ば、会社員人生の終着点も見えてきた。だが、まだ子供たちは高校・大学と教育費もかかる。セカンドキャリアに向けて試行錯誤している。やりすぎ感もあるが。

こうやって、年老いた母との距離感を悩み続けるのだろう。たぶん、正解は最後までわからない。

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